インシデントを迅速解決するサポート体制
「インテリジェント スウォーミング」解説

インテリジェントスウォーミング解説

「サービスのUX(ユーザーエクスペリエンス)や顧客体験・CX(カスタマーエクスペリエンス)」が重視される現代において、カスタマーサポートに力を入れている企業は多いと思います。一方で、多くの企業が現在直面している課題として、カスタマーサポートに投入できる人材やコストが限られている状況があります。そのため、カスタマーサポートのメンバーを階層化し、エスカレーションによって段階的にサポート対応をしているケースも多いのではないでしょうか。しかし、このようなエスカレーションを前提としたカスタマーサポートは、緊急対応が必要な際に無駄な待ち時間を発生させるリスクがあるため、見直す必要があるケースがあります。

そうしたケースにおいて、サポート体制を見直す際にご紹介したいのが「インテリジェント スウォーミングモデル」です。本記事では、従来の「階層型のカスタマーサポート体制における問題点」や、「インテリジェント スウォーミングモデルって、そもそも何?」という疑問にお答えるする概要について解説します。ユーザーの期待値が高まり、常時稼働するサービスの提供を企業が求められる現代において、カスタマーサポートにおける問題解決の迅速さは重要度を増しています。この記事をご参考にしていただき、カスタマーサポートの体制を見直す一助として頂けますと幸いです。

いま、カスタマーサポート体制の見直しが必要な理由

お客様に生じた問題解決は、早ければ早いほど良いのは確かですが、迅速な問題解決はそうそう簡単ではありません。それぞれのお客様が1つの問題しか抱えていなくても、企業は顧客数に応じた数のさまざまな問題を抱えているためです。企業が順に問題解決にあたっていたとしても、対処する問題の数が多ければ顧客は待たされることになります。問題解決のために一定の待ち時間が発生するのは仕方のないことだと思われるかもしれませんが、考える必要があるのは、顧客が想定している「”一定”の待ち時間の長さ」が以前よりも短くなっていることです。

ソフトウェアやアプリをはじめ現代のITサービスは24時間365日稼働することが当たり前のように期待されており、システム障害やサービス停止が顧客に与える影響は年々大きくなっています。そのため、お客様は以前のように問題解決まで長くは待ってくれません。さらに、ユーザーには多種多様なサービスの選択肢があり、サブスクリプション契約であればなおさら、容易にサービスを乗り換えられる状況にあります。その結果、顧客の基準に沿って迅速に問題が解決されなければ、サービスの解約・サービス離れを引き起こしてしまいます。

しかし現在でも、そうしたシステム障害やサービス停止といった問題を前にして、多くの企業では以前からの主流である「階層型のカスタマーサポート体制」を採用することが多いのが現状です。階層型のカスタマーサポート体制はエスカレーションによって専門家に対応をつなぐため、緊急度の高い問題発生時にもエスカレーションに時間を要し、対応の初動が遅れてしまうリスクがあります。いくら優秀な専門家がいても、専門家につながるまでに時間を要していては効率的なカスタマーサポートとはいえません。例えば、「システム障害」「サービスの停止」といった重大なインシデント対応に非常に多くの時間がかかってしまうと、企業の信頼低下や機会損失にもつながります。問題解決に迅速さが求められる今、カスタマーサポート体制の見直しが必要なのです。

階層型サポートモデルにおける4つの問題点とは

現在でもカスタマーサポートを提供する企業の多くが、以前からの主流である階層型サポートモデルの体制を組んでいます。階層型サポートモデルは顧客対応をエスカレーションさせるモデルで、通常、サポートレベルを3層に分けて段階的に顧客の問題に対応します。例えば、3層のサポートシステムの場合、「第1レベル」では顧客の問い合わせ窓口として、一般的なテクニカルサポートを提供します。第1レベルで解決できなければ、より詳しい専門知識とサポート技術を持った「第2レベル」へエスカレーションされます。第2レベルでも解決できなければ、さらに高度な対応にあたれる「第3レベル」のエキスパートへエスカレーションされます。

この階層型サポートモデルは、「何度も繰り返される重大度の低い問題の解決」に向いています。しかし一方で、「迅速さが求められる深刻なインシデント対応」には太刀打ちできない局面が発生します。対応のバトンをエスカレーションしている間にも、インシデントによる被害が大きくなってしまうからです。具体的に、「効率的な問題解決」や「顧客体験」といった観点での階層型サポートモデルのおもな問題点を4つご紹介します。

【問題点①】初動対応や解決における時間の浪費
階層型サポートモデルでは、インシデント対応における「トリアージのプロセス」を一つひとつ順に進めていくため、途中にその問題の扱いに精通していないスタッフがいると、解決に向けたプロセスがそこでスピードダウンしてしまいます。問題を解決できるはずの専門家へつながる前に時間を浪費して余計な遅延が生じたり、問題の重要なコンテキストや情報が失われたりします。

【問題点②】増え続ける未処理問題
第1レベルのサポートで解決されなかった顧客の問題はエスカレーションされ、次のレベルの対応を待つことになります。上位の担当者がすぐに対応できるときは良いのですが、そうでない場合、この問題は「対応中」から「未処理」の状態になります。通常、上位のレベルほど担当者の数は少なくなるため、複数のトラブル発生などで同時に多数のエスカレーションが発生すると、問題の数が上位レベルの担当者の数を超えてしまうことがあります。その結果、誰も対応にあたっていない未処理の問題が増え続けてしまうのです。

【問題点③】責任意識の喪失
階層型サポートモデルは、エスカレーションと引き継ぎのプロセスを基本にしています。問題を専門家にエスカレーションするのが当然の環境では、窓口の担当者の責任意識が希薄になるのは仕方がありません。その結果、エスカレーションした問題の対応結果への関心が減り、エンドツーエンドでインシデント対応を学ぶ機会を失うことになります。

【問題点④】ネガティブな顧客体験
あなたが顧客だった場合、何人ものサポート担当者に何度も同じ説明を繰り返すことが、いかに顧客満足度を下げるものか、イメージしやすいと思います。階層型サポートモデルでは対応者の引き継ぎが発生するため、引き継ぎが不十分であれば、顧客は何度も状況を説明することになります。また、何度も対応を引き継がれ、解決するまでに長い時間を待たされることもネガティブな顧客体験の一つです。

階層型サポートモデルは、必ずしも悪いものではありません。比較的重大度が低く、1度の回答で解決できる問題には非常に効果的なサポート体制です。しかし、階層型サポートで緊急度の高い重大なインシデントに対応しようとすると、階層型であるがゆえの非効率性が生まれます。それがネガティブな顧客体験を生み、最終的に顧客離れにつながってしまう恐れがあるのです。

「インテリジェント スウォーミングモデル」とは

では、階層型サポートモデルの問題を回避し、重大で緊急度の高いインシデントにも対応できるサポート体制とはどのようなものでしょうか。階層型サポートモデルと異なり、インシデントの即時解決を目的とした「スウォーミングモデル」と、それを進化させた「インテリジェント スウォーミングモデル」について解説します。

スウォーミングモデル」とは

「スウォーミングモデル」は、階層型サポートモデルのような「待ち行列型の対応」ではなく「即時対応」を目的として、カスタマーサービス担当者と専門家が協力体制を組むモデルです。そのため、「独立した個別の対応」ではなく「コラボレーション」を「一方通行のエスカレーション」ではなく「担当者のオーナーシップ」を重視します。

スウォーミングモデルでは、問題を最初に受け付けたカスタマーサービス担当者がケースオーナーとなり、問題が解決するまでそのケースを扱います。そこには、階層型サポートも顧客の引き継ぎもありません。ケースオーナーが問題を解決できない場合は、専門チームに協力を依頼し、全員でその問題解決に取り組みます。

インテリジェント スウォーミングモデル」とは

スウォーミングモデルを発展させ、高度なコラボレーションによってより迅速かつ効果的に問題解決にあたれるのが「インテリジェント スウォーミングモデル」です。通常のスウォーミングモデルでは、構成されたチームのメンバーが必ずしも問題解決にふさわしい専門家とは限りません。それは、ケースオーナーが協力を求める専門家を決めるため、専門家の適切さはケースオーナーの経験値に依存してしまうからです。

一方、インテリジェント スウォーミングモデルは、必要な人材を必要なときに招集して、全員が協力しながら問題解決にあたります。多くのスタッフが対応に関わる点はスウォーミングモデルと同じですが、AI(人工知能)を活用して、過去の対応履歴をもとに問題解決にふさわしい専門家を探し出す点が異なります。また、迅速な情報共有のもとで全員が個別に対応するという点でも、通常のスウォーミングモデルとは異なります。このように、「スウォーミングモデルが緊急度の高い問題の解決に有効なモデルであること」に加え、「インテリジェント スウォーミングモデルはさらに効率的な問題解決」を実現します。

インテリジェント スウォーミングを実現するためには

インテリジェント スウォーミングモデルの実現にあたり必要になるのは、サービス担当者がそれぞれの専門家と協業するために「必要な情報にいつでもアクセスできる環境」です。つまり、問題の内容や発生箇所といったデータを、リアルタイムかつ組織を超えて横断的に共有することが求められます。それには、ケースオーナーと専門家が双方向にコミュニケーションを取るためのツールが必要です。また、顧客が影響を受ける前にインシデントを検出したり、適切な専門家を選定したりするためには、機械学習の導入も求められます。なお、システム障害を予防するための対策については、こちらの記事「システム障害を未然に防ぐ『インシデント管理』とは?」も参考にしてください。

さまざまな準備が必要になるインシデント対応におけるインテリジェント スウォーミングモデルの実現には「PagerDuty」の活用がおすすめです。PagerDutyは、システムのインシデント対応を一元化するプラットフォームで、インシデント対応をさまざまな側面から効率化する多様な機能を提供しています。例えば、PagerDutyを利用すれば、インシデントの履歴とテクニカルリソースの監視データを可視化でき、サポート担当者がその情報をもとに問題の全体像をつかむことで、適切な解決方法を見つけやすくなります。また、担当者だけでは解決できない問題が発生した場合は、PagerDutyの機能を使って迅速にサポートメンバーを招集できるため、インテリジェント スウォーミングを実現することが可能です。

インテリジェント スウォーミングにPagerDutyを活用する3つのメリット

インテリジェント スウォーミングでPagerDutyを活用するメリットを3つ紹介します。

【メリット①】インシデント対応者の増員を簡単に要請できる
PagerDutyには、インシデント対応者の増員が必要なときに、簡単に増員を要請できる「対応者の動的な追加」機能があります。これにより、組織を超えて解決に必要な専門家へ即座に連絡が届き、必要に応じてその連絡からWeb会議を開いて、メンバーですぐに詳細な打ち合わせを実施できます。追加メンバーへの通知は、緊急度に応じたルール設定に基づいて送られるため、大量の緊急ではない通知にメンバーが悩まされたり、重大な問題が見過ごされたりすることはありません。

【メリット②】スウォーミングにともなう煩雑な手作業を自動化できる
PagerDutyには、インシデント対応に必要な複数のアクションを事前に定義し、ワンクリックまたは任意の条件下において自動的に実行可能な「Incident Workflows」機能があります。それを利用すれば、毎回のスウォーミングで必要となるさまざまな手作業の自動化が可能です。例えば、「対応者の追加」「Web会議の設定」「ステークホルダーへのインシデント発生の連絡」「ステータスアップデートの発行」などを自動で実行できます。この自動処理は、特定のサービスに関するインシデントに特定のサービスに関するインシデントにだけ適用したり、担当者が重大度に応じて手動で実行したりすることも可能です。

【メリット③】各種チケットツールやチャットツールと連携でき、シームレスなインシデント対応が可能
PagerDutyは、ZendeskなどのチケットツールやSlackといったチャットツールと強力に連携しているため、担当者と専門家との双方向なコミュニケーションを実現します。例えば、担当者は連携ツールからPagerDutyでインシデントを発生させられるため、ツールを切り替えて別の対応を始める必要がなく、問題解決にふさわしいチームや専門家と即座につながれます。PagerDutyは、オールインワンで対応できるオーケストレーションツールやコラボレーションツールとしても利用できる充実した機能を備えているため、シンプルな環境で効率良く、スウォーミングの対応を実現できます。オーケストレーションについては、こちらの記事「インシデント初動対応を効率化する『イベントオーケストレーション』とは?」を参考にしてください。

サポート体制を見直して重大なインシデントにも即時対応しよう

システム障害やインシデントなど迅速な問題解決に対する顧客の期待は日に日に高まっています。特に、緊急で重大な問題に対しては無駄なく迅速に解決する必要があり、それにはインテリジェント スウォーミングモデルでのカスタマーサポート体制が有効です。正しい実践方法を事前に確立させておけば、適切な専門家を適切なタイミングで、自動的にイベント対応へと引き込めます。一方で、重大度が低く緊急対応を必要としない問題には、階層型サポートモデルも役立ちます。大切なのは、どのようなサポートモデルにおいても、エスカレーションポリシーに従ったオンコールの自動通知など、自動化を進めてインシデント対応を効率化し、問題解決を早めることです。問題解決を早めるほど、顧客離れを防げます。

デジタルイノベーションとユーザー体験の重要性がますます高まっている現代だからこそ、貴社のカスタマーサービス機能に革命をもたらす新たな方法を見つけてみませんか?PagerDutyは、インテリジェント スウォーミングモデルの実現に役立つだけでなく、インシデント対応全般において効率化・自動化を強力にサポートし、迅速なインシデント対応を実現します。PagerDutyのさまざまな効果については、こちらの導入事例一覧からご確認いただけます。

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